嚥下・ボイスセンター
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嚥下・ボイスセンターとは
平成29年7月より、「嚥下・ボイスセンター」を開設しています。耳鼻咽喉科専門医、摂食嚥下障害看護認定看護師、言語聴覚士、管理栄養士がチームで診療にあたっています。
嚥下センターは、いわゆる嚥下障害の診断と治療を行います。嚥下とは、食事などを口から胃に送り込む一連の動作を指します。通常は、口に入った食べ物は咀嚼した後にほぼ無意識に飲み込んでいると思いますが、何かしらの障害が生じると上手に飲み込めなくなり、ムセが生じたり、食べた物がノドにひっかかったりします。原因は、神経疾患、腫瘍性疾患、膠原病、老化など様々です。固形物が飲み込みにくい場合は食道の狭窄の可能性が、水分が飲み込みにくい場合は機能低下の可能性があります。飲み込みやノドの違和感でお悩みの方はお気軽にご相談ください。
ボイスセンターは、いわゆる音声障害の診断と治療を行います。声がかすれる(嗄声)、声が出しにくい、大きな声が出ない、ノドの違和感があるなど、様々な症状に対応して、専門の医師と言語聴覚士が連携して、詳しい問診聴取と、喉頭内視鏡検査、発声機能検査、各種画像検査などから診断し、適切な訓練指導や治療を御提案いたします。保育園の先生や教師など日常において声を酷使する方や、アナウンサー・歌手などの声を職業とする方などの声に関する悩みや不安はお気軽にご相談ください。音声改善手術を全身麻酔で行う施設が多いなか、当センターでは局所麻酔での1泊入院手術を導入しております。全身麻酔の場合は、より繊細な操作が可能となる利点がありますが約5日間の入院が必要です。全身麻酔下で経口腔的に喉頭鏡を挿入し声帯病変を顕微鏡下に観察ししながら手術操作を行います。一方、局所麻酔の場合は、座位で経鼻的に内視鏡を挿入して声帯病変を観察しながら経口腔的に鉗子類を挿入して直接病変を切除したり、首から直接針を刺入して声帯に薬を注射する方法です。1泊2日の短期入院で対応しており、お仕事でお忙しい方や小さなお子様がいて長期入院が難しい方などにお勧めです。但し、それぞれの方法には適応がありますので、詳しくは当センターにお問い合わせください。
当センターでは音声訓練(リハビリテーション)も行っており、医師と言語聴覚士が連携して方針を決定し、声の衛生指導や各種訓練を行っています。
受診方法
外来は毎週水曜日の午前・午後です。近隣の耳鼻咽喉科より紹介状を書いていただき、当院病診連携窓口を通して直接専門外来を予約することが出来ます。また、先に一般外来を受診していただき、必要に応じて専門外来を予約することもできます。当日の受付は、外来の予約状況によってお受けできない場合もありますのでご注意下さい。
嚥下障害に対する対応
各種検査と診断
「なんとなく飲み込むときにノドに違和感がある」、「食事をすると時々ムセることがある」、「お薬を飲むとノドに引っかかるときがある」などの症状も嚥下障害である可能性があります。喉頭内視鏡を用いて喉頭および下咽頭を観察しながら着色水などを飲み込んだり、喉頭の知覚を確認する嚥下内視鏡検査(VE)を行っています。また、放射線透視下で直接バリウムなどを飲み込んで通過状態を確認する嚥下造影検査(VF)も行っています。必要に応じて頸部CT検査を行い嚥下障害の原因究明を行っています。
嚥下造影検査:他職種(医師・看護師・言語聴覚士・管理栄養士・放射線技師など)で評価
嚥下造影検査所見:飲み込んだバリウムが喉頭蓋谷に停留している(誤嚥する可能性有り)
リハビリテーション
嚥下という一連の動作には認知期・準備期・口腔期・咽頭期・食道期があり、それぞれがなめらかに連動しています。どれ1つが欠けても嚥下障害となります。リハビリテーションには、間接訓練(食べ物を用いない)と直接訓練(食べながら)があり、病態によって適宜選択されます。不適切な訓練を行ってしまうと、誤嚥を悪化させ肺炎の原因となりますので十分な知識が求められます。言語聴覚士が中心になって入院訓練だけではなく外来通院での訓練も行っております。将来的には訪問訓練も検討しています。
手術療法
嚥下の手術には、嚥下機能改善手術と誤嚥防止手術があります。一般的に、ある程度は飲み込めるが十分では無い症例には嚥下機能改善手術を、全く飲み込めないか誤嚥性肺炎を繰り返すような症例には誤嚥防止手術を選択します。嚥下障害の原因疾患によっても治療は違っていて、腫瘍性疾患の場合は、切除術や放射線治療などを選択します。神経筋疾患の場合は原疾患の治療を優先しますが、誤嚥が顕著な症例ではあらかじめ誤嚥防止術を提案することもあります。年齢的変化による嚥下障害の場合は、嚥下訓練を指導し、それでも改善が乏しい場合は嚥下機能改善手術をお勧めしています。いずれにしても、最終的には口から十分な食事を摂れるようにすることが目的となります。病態によっては気管切開が必要になる場合もあります。原因疾患や全身状態、家庭環境、患者様の食への希望などを総合的に考慮してオーダーメイドな治療を行っています。
音声障害の代表的疾患と治療法
声帯ポリープ
日常的に音声を酷使があったり、風邪を引いたときに声帯に炎症や出血がおきるのが原因でポリープが生じるとされています。症状は嗄声や声が裏返るなどが多くみられます。一側性に生じることが多くみられます。保存的治療として投薬と吸入療法を行います。改善が乏しい場合は手術で切除します。当センターでは長期入院の全身麻酔手術と、短期入院の局所麻酔手術の両方が対応可能です。
小児および成人の声帯結節
元気の良い子供や歌手やアナウンサーなどの職業的音声使用者に多くみられ、両側声帯にタコのような硬い隆起性病変が生じる疾患です。症状は嗄声ですが、重症例では全く声が出ない失声となることもあります。治療の基本は声の衛生指導と声を出さないことですが、小児の場合は自然消退が期待できるため過剰な指導は行わず経過観察とします。成人の場合は発声方法の指導を行います。改善がみられなければ切除することがありますが、職業性の場合は再発することが多いです。全身麻酔でも局所麻酔でも対応が可能です。
ポリープ様声帯
タバコが原因で声帯がむくんでしまう疾患です。両側に生じることが多いとされています。症状は、声が低くなるや、高い声が出なくなるなどです。治療としては、軽度の場合は禁煙と吸入療法のみで改善することがありますが、中等度~重度の場合は手術が必要になります。基本的には全身麻酔の手術対応となります。重度で呼吸苦を訴えるような場合は窒息の危険性が有り、緊急対応が必要になることがあるので注意が必要です。
声帯萎縮
声帯は大きく分けて粘膜・粘膜下組織・声帯筋が存在しますが、このいずれか痩せてしまうのが声帯萎縮です。原因としては、加齢、声帯麻痺、声帯手術後、ステロイド剤の使用などが挙げられます。発声時に声帯間にすき間が生じるため、症状は息漏れする声(気息性嗄声)、長く声が出せない、大きな声が出ないなどです。治療は、痩せて細くなった声帯に直接薬剤を注入して膨らませる手術が中心となります。全身麻酔でも局所麻酔でも対応可能です。局所麻酔の場合は前頸部から経皮的に針を刺入して直接声帯に注入します。
喉頭肉芽腫
無理な発声を続けることで不必要な力が声帯に加わった刺激や、炎症などが原因で声帯に肉芽という隆起が生じるとされています。逆流性食道炎も原因となるとされています。音声障害をきたすことが少なく、胃カメラの際に発見されることも多いです。治療は、保存的に内服薬と吸入療法を行うのが一般的です。難治性の場合は悪性腫瘍を否定する意味で切除して病理診断を行うこともあります。比較的再発し易い疾患とされています。全身麻酔でも局所麻酔でも対応可能です。
喉頭蓋嚢胞
喉頭蓋というノドの入り口の蓋のような部分に、内部に液が貯留し膨隆した腫瘤が生じます。内容液が液体の貯留嚢胞と、粘土のような皮様嚢胞に分けられます。原因は明らかではありません。無症状であることが多いですが、時に嚥下時の違和感を呈することがあります。嚢胞に感染すると急激に腫脹して気道を閉塞し呼吸困難をおこすことがあり注意が必要です。治療は、切開して内溶液を排泄する方法や、嚢胞全部を摘出する方法などがあります。全身麻酔でも局所麻酔でも対応可能です。
反回神経麻痺
正常な声帯は呼吸時は開いていて、発声や嚥下時は閉じていますが、何かしらの原因で、いずれか片方もしくは両側の声帯が動かなくなる疾患です。声帯が開きっぱなしになる場合は、息漏れがひどく声が出なくなり、誤嚥を起こしやすくなります。逆に閉じっぱなしになると呼吸が出来ず窒息する危険性があります。麻痺の原因は、甲状腺癌、食道癌、肺がん、動脈瘤、脳疾患など様々です。治療は、開いている声帯を閉じさせる手術や、閉じた声帯を開かせる手術を行います。声帯にコラーゲンなどを注入する方法や喉頭に直接ゴアテックスを挿入する方法、糸で声帯を外方に牽引する方法や声帯をレーザーで切除する方法など、麻痺の状況に応じて手術手技を選択しています。
痙攣性発声障害
発声時に声がふるえる病気で、声が詰まって出なくなることもあります。原因は、神経疾患であるという説や精神的な疾患であるという説など一定のものはありません。音声訓練は無効とされていて、一般的にはボツリヌス毒の声帯注入や甲状軟骨形成手術が行われています。当センターではボツリヌス毒の注入のみ行っています。
心因性発声障害
声帯には何も異常が無いのに心の問題で声が出ない疾患です。耳鼻咽喉科単独の治療では無く、精神科的な治療も必要となります。極度のあがり症で声がふるえる、声が出なくなるなどもこれに該当します。精神的原因の自覚が無いこともあり、時間をかけた診療が必要になりますが、精神的に安定すると元通りの声が出るようになることが多いです。一般耳鼻科で『異常が無いので経過を見るように』と言われるような場合には、一度当センターを受診することをお勧めします。
喉頭および気管狭窄症
声門下や頸部気管に狭い部分が生じてしまい、呼吸や発声に影響が出る疾患です。原因は、全身麻酔の手術歴、気道熱傷、薬物刺激、先天性、原因不明の特発性などがあります。呼吸苦を呈する場合には気道確保として気管切開術が必要になることがあります。治療は、狭窄部位の切除と再建を行いますが、治療には長期間を要します。途中経過で再発することも多く、根気強い治療が必要になります。
局所麻酔でおこなう喉頭内視鏡手術
経口腔的に行う手技と前頸部から経皮的に行う手技があります。声帯ポリープなどの隆起性疾患は経口腔的の適応となり、助手が経鼻的に内視鏡で喉頭をモニターし、術者が経口的に鉗子などを挿入して病変を切除します。声帯結節や声帯萎縮は経皮的の適応となり、術者は経皮的に針を刺入して直接声帯にステロイドなどの薬剤を注入します。いずれの場合も術前に咽頭・喉頭の麻酔を十分に行って嘔吐反射を抑制して行います。治療成績は一般的に行われている全身麻酔の直達喉頭鏡手術と遜色ない良好な結果となっています。当センターで声帯手術を受けた方の約7割は本手術を選択されています。通常は1泊入院の短期手術として行っています。