病理診断科
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病理診断とは
「病理診断」とは、患者様から採取された組織あるいは細胞を主に顕微鏡を用いて観察し、疾患の本態を明らかにするとともに、患者様の病名を決定づける診断分野です。昨今のCT やMRI を用いた画像診断、および「腫瘍マーカー」などの血液生化学分野における技術の進歩は目覚ましく、画像所見あるいは血液検査の結果のみによって診断を明確にすることができる時代に入りましたが、それでも「最終診断」としての病理診断学の意義は重要であり、特に、腫瘍の良悪性(“がん”なのか、“がん”ではないのか)の判断において、重要な役割を果たしています。従って、患者様が来院されて様々な検査を受けられた後、病理診断によって初めて”がん”と診断され、その後の治療方針が決まることも稀ではありません。病理診断業務は多岐に及びますが、大きく1) 組織診断、2) 細胞診断、3) 病理解剖、に分かれます。
1) 組織診断
患者様の体から採取された病変の組織を「ホルマリン」という薬液で固定し、「パラフィン」(=ロウソクと同じ原料)で固めた後、専用の機器で1/1000mm(ミクロン)単位の薄さに切ってガラスに貼り付け、顕微鏡で観察しやすいように染色を施します(HE 標本といいます)。これら一連の作業は全て国家資格を有する検査技師が行い、作製された標本は専任の病理専門医が検鏡して診断を確定します。組織診断はさらに、a) 生検診断、b) 手術中の迅速診断、c) 手術で摘出された臓器の診断、に分かれます。
a) 生検診断
主に内視鏡検査によって患者様の病変の一部を採取したり、皮膚の「できもの」の一部をメスで切り採ることを「生検」と言います。口腔~咽頭、消化管(食道、胃、大腸)、呼吸器(気管支、肺)、子宮(頸部、体部)、乳腺、肝臓、胆管、泌尿器(膀胱、前立腺)、皮膚など、基本的に「つまみ採る」ことができる臓器の全てがこの検査の対象になります。
b) 手術中の迅速診断
患者様の病変が体の深い部分にある場合(脳、膵臓、卵巣など)には、手術前に診断を明確にすることが困難です。このような場合には外科と連携して、手術中に採取された病変の一部を凍結した後、「クリオスタット」という特殊な機器で薄く切って標本を作製し、およそ15分程で病理診断がなされます。診断結果は直ちに執刀医に伝えられ、手術方針が決定されます。また、手術前に予め診断が確定している症例においても、病変が採りきれたか否かの確認や、リンパ節への転移の有無などを調べるためにも迅速診断が行われ、現場の外科医の手術方針に大きく寄与しています。
c) 手術で摘出された臓器の診断
手術によって摘出された臓器(胃、大腸、肺、子宮など)は、ホルマリンで固定された後、病理専門医が肉眼的に病変の部位や大きさ、深さなどを計測し、必要な部分を切り取ってHE標本を作製します。これらの標本を顕微鏡によって観察することで、病変の進行度、手術で完全に採りきれたかどうか、”がん”の場合には悪性度(タチの悪さ)やリンパ節への転移の有無、などが担当医に報告されます。この報告書は、患者様の治療方針や、予後を推測する上で重要なデータとなります。
2) 細胞診断
“がん”の中には、細胞が分泌物などと一緒に自然に排泄されるものがあります。例えば、肺がんでは喀痰に、膀胱がんでは尿中にしばしばがん細胞が出てきます。このように、患者様の分泌物をそのまま、あるいは細胞を集めて専用のガラスに貼り付け、特殊な染色を施して観察する検査が細胞診断です。のどや乳房など、自然に排泄されない場所に「しこり」が触れる場合や、胸部や腹部に水がたまった状態(胸水、腹水といいます)では、細い針を刺して調べる場合もあります。この検査は、一般的に 1) の組織診断よりも精度は低いものの、疾患のスクリーニング(病気の拾い上げ)に有効であり、また、患者様の苦痛が少ないというメリットがあります。
3) 病理解剖
不幸にして病気が原因でお亡くなりになった患者様を解剖させていただくのが病理解剖であり、必ずご遺族の承諾のもとに行われます(”剖検”ともいいます)。病理解剖により、病気がどのくらい進行していたのか、生前の診断は正しかったのか、治療効果が得られていたのか、死因は何か、などについて検討がなされます。剖検の結果は、担当医を交えた院内の検討会(CPC)において報告され、研修医をはじめとする医師の医学教育に貢献しています。また、剖検の結果は、他の方法では得難いデータとして蓄積され、医学の進歩へ貢献することが期待されます。
当院病理診断科の特徴
1) 自動免疫染色装置
病理診断は細胞形態学を基盤とし、患者様から採取された組織あるいは細胞の形態が、正常な組織から「どの程度かけ離れているか」を一根拠としています。つまり、がん細胞を顕微鏡で観察すると、基本的には、その由来となっている正常な細胞に類似した形態像を示しますが、がんの種類によっては、由来する臓器が異なっているにも関わらず、お互いに似たような形態を示すことがあります。このような場合、形態像のみから正確な診断に辿り着くことはしばしば困難であり、「酵素抗体法」という補助的な染色技術を要します。すなわち、がん細胞が発現するタンパクに特異的に反応する抗体を用いて染色する(免疫染色といいます)ことにより、細胞の由来を明確にしようとする技術です。この染色法は今や、病理診断に欠かせないツールとして広くオートメーション化されており、当科においても、平成 30 年度に「自動免疫染色装置」を導入するとともに、各種抗体を多数揃えて、診断の精度を高めるように努めております。 また、最近では、乳がんや肺がんなどの治療薬の選択において、がん細胞が、ある特定の蛋白を発現しているか否か、の判断にこの免疫染色がルーティンで行われています(これをコンパニオン診断といいます)。例えば下の写真のように、乳がんの細胞が「HER2」という特殊な蛋白を発現していると、「トラスツズマブ」という薬剤が有効であることがわかっています。このように免疫染色の結果は、がん患者様の治療方針に大きく寄与しています。
2) 病理遠隔画像診断
当科は、令和元年より「福島県遠隔病理診断ネットワーク」に参画しております。これは、当科で作製した標本を高精度スキャナで読み取ってデジタル画像化し、ネットワーク上でこれらのデータを他施設の病理診断科へ送受信するものです。このシステムを用いることにより、病理診断の困難な難解例や、手術中の迅速標本の画像データを福島県立医科大学附属病院病理診断科へ送信し、複数の病理専門医による診断を仰ぐことができます。このように、当科では今後、大学病院との連携を一層強化するとともに、より正確な診断を患者様へご提供できるように努めてまいります。
ドクター紹介
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検査部長田﨑 和洋
専門
外科病理学一般
悪性リンパ腫の病理所属学会、認定、専門医等
日本病理学会認定病理専門医・指導医
日本臨床細胞学会認定細胞診専門医・指導医
日本リンパ網内系学会
日本血液学会
福島県立医科大学 臨床教授